クイズ付宣言書の感想

卒業式にもらったミツキからの手紙は、本人も自覚しているようにズレた代物だった。 無事に高校受験を乗り越えて中学校を卒業するにあたって、陰で支えてくれたであろう保護者への感謝を綴ることを学校側は意図していただろう。おそらく多くの生徒が、3年間…

クイズ付宣言書

「卒業式に行くと、いろいろな資料が入った封筒を渡されると思うんだ。その封筒の中に手紙が入っていると思うんだけど、読まないで捨ててもらえないか」 卒業式の前日、ミツキは神妙な面持ちで言った。文章を書くのが苦手なミツキのことだ。どうせまたズレた…

中学卒業旅行

毎年お正月休みはスキー場へ家族旅行、1月の3連休は夫の実家への帰省と決まっていた。しかし、この年はミツキの受験を考慮して、家族旅行はおあずけにした。旅行好きの私としては、ミツキの中学卒業旅行を企画したかった。当初の志望校には届かなかったが、H…

私と祖父母

私は中学受験を経験している。結果は自分でも納得の不合格だった。結果発表の帰り道、相当なショックを受けた母は、目にこぼれんばかりの涙を浮かべ、鬼の形相で「この金食い虫!」と私に言った。私はその日から親に物をねだることができなくなった。 中学生…

無心行為

2月半ばの土曜日、朝から外出していた私が昼過ぎに帰宅すると、ミツキは出かけていた。 「急におばあちゃんの家に行くって言って出かけたぞ。ミツキから聞いてないのか?」 訝しげに夫は言った。夫の反応通り、確かに怪しい。ミツキは、今まで1人で私の実家に…

高校受験終了後

高校受験といっても面接のみだったが、とにかく合格したのだから、ミツキ本人にはやりきった感があった。そりゃあそうだろうけど、私はどうもおもしろくない。 その上、合格した途端に登校時間が更に遅くなった。それまでは、時間が近づくとそれなりに慌ただ…

高校合格後

面接に関しては、何の不安もなかった。中学校の面接練習でも、先生からお墨付きをいただいていた。人当たりがよく、コミュニケーション能力は長けているのだ。 無事、合格した。 そして、合格を確認した直後にミツキは体調を崩した。飄々と日々を過ごしてい…

ミツキとじいじ

ミツキが幼稚園年長の年に、実父は脊柱管狭窄症の手術を受けた。持病である糖尿病との兼ね合いが悪く、手術は難航した。 退院後も、予想とは違う現実が待っていた。無口だが優しく朗らかな実父から笑顔が消えた。ミツキが小学2年生になるころには、20キロ以…

志望校決定

12月に入ってすぐに、仮評定が出た。国語と美術が「3」にあがっていた。これにより、私立H高校の推薦基準をなんとかクリアした。正確に言うと5教科で「1」不足しているが、野球部加点があることで救われた。野球をがんばってきて本当によかったと思った。 残…

高校見学②

秋には、公立2校と私立1高の文化祭に行った。偏差値52の公立E高校と偏差値48の公立F高校と偏差値49の私立G高校を選出。偏差値の違いでどれだけ学校の雰囲気が違うかをミツキに体感させたかった。 まずは、偏差値48公立F高校。ミツキはF高校の最寄りの駅でノ…

高校見学①

2年時に2校と3年時で5校、合計7校の高校見学をした。 初めて訪れたのは、公立のA工業高校だった。近隣の工業高校の中で最も生徒が落ち着いていて、就職率の良い、人気のある高校だった。私の高校時代は、工業高校といえば不良のたまり場で、良いイメージはな…

成功体験がまったく活きない

ミツキに「やればできる」を実感してもらえるように、ずっとサポートしてきた。一般的には、成功体験をすればもっとがんばろうと欲が出るものだと思うのだが、ミツキに限ってはそうはならない。うまくいったところで、それはそれと終止符が打たれてしまう。…

潜在意識に刷り込む

6月は野球の夏季大会に向けて朝練があったため、7時過ぎには登校した。そのおかげで、ビー玉はどんどん瓶に貯まっていった。 瓶に色とりどりのビー玉が貯まると、とてもきれいだった。 「おっ、今月はお小遣いもらえるぞ」 貯まればミツキもヤル気が出るよう…

なんでも受け入れちゃう系男子

中学3年生に進級し、3階の教室となった。 「約束通り、これからは7時55分に家を出るんだよ」 「8時で大丈夫だよ」 「おっと、話が違う。3年になって教室が3階になったら7時55分に出る約束でした」 「分かったよ」 「でね、確実に55分に出る意識付けのために…

ミツキの登校状況

ミツキの中学校はベル着運動を行なっている。ベル着とは、登校時間の8時20分の5分前に鳴る予鈴で着席を心掛ける運動だ。家から学校までは徒歩20分。つまり、7時55分までに家を出る必要がある。登校中に友だちと会えば、歩くのが遅くなるかもしれない。もし私…

遅刻について

私は子どものころ、7号棟まである巨大な団地に住んでいた。当時は子どもがたくさんいて、集団登校は団地の1階ホールに集合した後、各階ごとに列になって登校した。 6年間で一度だけ遅刻をしたことがある。小3の秋のこと。起きてカーテンを開けると、窓の外…

自分を変えられるのは自分だけ

ミツキとの勉強時間は、気になることだらけだ。小学生の頃から注意し続けていることを一向に正せない。 勉強開始時間厳守 正しい姿勢 下敷き 鉛筆の持ち方 字を丁寧に 左手を出す 勉強に必要な物を予め準備 きれいに消す 消しかすはまとめておく 線は定規で…

学年末試験

2月下旬の学年末試験に向けて、2月に入るとすぐに試験勉強を始めた。 「いつも定期試験直前になって時間が足りないことに気付くから、これからは3週間前から準備しよう。もちろん、本当は試験前でなくても毎日の復習は大切だよ。でも、試験前にならないとヤ…

作文練習

エンカレッジスクールを受験することになった場合のために、作文の練習をしようと思った。だが、練習といっても何をしたらいいのか見当もつかなかった。 ミツキとの会話は楽しい。語彙力不足のため、ときどき誤った言葉の使い方や端的に表現できないこともあ…

内申をあげるには②

美術と体育の他に内申を上げられそうな教科は、社会と国語だと思った。試験前、ミツキはいつも数学と英語しか勉強していなかった。数学はミツキが好きな教科で、放っておくと数学にしか手を付けなかった。それでは困るので、私主導で英語をやった。国語・理…

内申をあげるには①

換算内申では、実技4教科の素内申の合計を2倍する。ということは、主要5教科の成績を上げるよりも効果的に換算内申をあげることができる。とはいうものの、物作りが苦手なミツキに作品のクオリティは期待できない。また、試験勉強をやろうにも、試験前には他…

勝手な思い込み

1980年代前半はどこの公立中学校も荒れていてヤンキーの全盛期だった。「なめ猫ブーム」「積木くずし」など、テレビでも多数取り上げられていた。 私が中学生になるころにはヤンキーは減りつつあったが、1つ上の学年には誰もが恐れるスケバンがまだ存在して…

1212行進

我が家の住む地域の公立中学校は、2学期制で、前期と後期に分かれている。6月の下旬に前期中間、9月の中旬に前期期末、11月中旬に後期中間、2月下旬に後期期末と、年4回の定期考査が行われる。 中間考査といえば主要5教科、期末考査といえば実技教科を含む9…

おしゃべりタイム

ミツキとの勉強がなかなか進まない原因は、本人のやる気のなさや、覚えの悪さ以外にもあった。それは、ミツキに乗せられて、つい私もおしゃべりしてしまうことだった。例えばこんなおしゃべりだ。 「四則計算ができれば生きていけるんだから、数学なんていら…

退塾

栄養療法を始めて半年過ぎた11月、再度血液検査をして、数値の変化を確認した。数値は以前より少し良くなっていた。医師は、栄養療法の効果が出ていると言ったが、実感はなかった。そして、更に良くするためにとサプリの種類が増えた。増えたサプリは、DHAな…

英語の学習

塾の英語を辞めて、本格的にミツキとの家庭学習が始まった。11月半ばの期末試験に向けて、塾以外の日は毎日9時から11時までの2時間を予定していた。 しかし、いつもミツキが開始時間に遅れた。家事を終え、先にテーブルに着くのは私だった。とにかくミツキは…

悩みが尽きない

サプリの摂取を止めて1か月経過した8月の半ば、野球の公式試合の応援に行った。ミツキはセンターでスタメン出場。2度センターフライをキャッチし、ホッと胸を撫で下ろした。しかし、フライキャッチはよかったが、試合には集中できていないようだった。フラフ…

塾②

スクールカウンセラーの山崎先生には、塾ではなく家庭教師を勧められていた。大学で心理学を学んでいる学生に家庭教師を頼むといいのだそうだ。一般の家庭教師よりも低価格で、且つ、心理学を学んでいるから集中力のない子どものコントロールを心得ているか…

塾①

中1の11月から個別塾に通い始め、英語と数学を受講していた。授業は週2日だけだが、自習室があるのでいつでも塾に行くことができる。塾側は授業のない日にも自習室を利用するよう勧めていたが、ミツキは行こうとしなかった。本来なら、私も勧めるべきなのだ…

家出③

「心配かけてごめんなさい」 家に入る直前に、ミツキは言った。 「無事だったからそれはもういいよ。ただ、事の発端に戻ってミツキの考えを聞かせてほしい。明日は補習に行って、藤田先生に謝れるのかな?」 「それは、まだ考えてる」 その後は何も話さず、お…